歯が原因となっている口臭で、来院される方が多くいらっしゃいます。
ご本人は深く悩んでおられますし、もちろん周りの方もいい気分はしません。
私の経験上、口臭で、胃や腸に原因があるものは少ないと考えていいと思います。
大半は歯に原因があり、「嫌気性菌」が出す「硫化ガス」がもととなっています。
嫌気性菌とは、活動するのに酸素を必要としない性質(酸素を嫌う性質)を持つ細菌のことです。
酸素を必要としないのですから、不潔な環境で生きていけます。
おまけに嫌気性菌は、活動するとたいてい硫化水素などのガスを出すので、嫌なにおいを発します。
そしてそのような嫌気性菌が歯の周辺で活動することで、口臭の原因となるケースが多いのです。
歯周病が口臭を引き起こす?
口の中にはふつう酸素が入るので、嫌気性菌が活動できる場所は、もともと少ないはずです。
しかし嫌気性菌が活動できる数少ない場所の一つが、歯と歯茎の隙間、「歯周ポケット」なのです。
この歯周ポケットの内部には、徐々に歯垢(プラーク)が作られていきます。
嫌気性の菌はそこに入り込んで、じわじわと増殖していくことができるのです。
歯周ポケットに菌が増殖する――。お気づきでしょうか。口臭とは、歯周病の可能性が高いのです。
こうなると、もちろん歯磨き程度では落ちません。歯周病の治療が必要となります。
口臭は、舌の表面に増殖した細菌が作り出す「舌苔」(ぜったい)が原因である場合もあります。
この場合は、舌の表面を消毒すれば取り除くことができますので、処置は比較的簡単です。
しかしもし歯周病菌が原因であるならば、歯周ポケットの奥深くに手を付けなければなりません。
歯周病菌は嫌気性菌で、酸素が苦手ですから、プラークを取り除いて空気を通す必要が出てきます。
そのためには歯周ポケットの一つ一つに手を付けて、丹念に掃除しなければなりません。
また歯周病菌が歯肉などに増殖していたら、これも殺菌するなどの治療をしなければなりません。
決して、その場ですぐに解決できる問題ではありません。結局ふだんの予防対策が大事なのです。
歯周病菌を増やしすぎない
歯周病菌というのは、多かれ少なかれ、ほとんどの人の口の中に生息しているものです。
しかし全員が口臭に悩んでいるわけではありません。菌が増えすぎることで生じてしまうものです。
逆に増えすぎなければ、深刻な口臭にまで発展することはあまりありません。
つまり「歯周病菌が口のなかで増殖しすぎるのを防ぐ」ことが口臭対策といっていいと思います。
ですから、ふだんから、正しい歯磨きを継続してやっていただく必要があるのです。
また乳酸菌のタブレットを常用することも、菌の増殖を抑えるためには有効です。
ただ一度生じた歯周病菌を完全に根絶やしにすることは、現実的にはできません。
つまり根絶できないからこそ、歯周病は(それに伴う口臭も)歯医者の「永遠のテーマ」なのです。
歯医者に一度行ったからといって、安心して何もしなくなると、再発するリスクは十分にあります。
治療をした後も油断せず、くれぐれも歯磨きはきちんとし、歯科医の診察を受けましょう。